御礼とご報告:第14回パパママセミナーを終えて par1

令和1年9月29日(日) 第14回 パパママセミナーのご報告です。
ご参加くださった皆様、日曜日の午前中という貴重な時間帯にお集まりいただき、心より御礼を申し上げます。

今回のテーマは、「小児科医が伝えたい 子どもに与えるお薬の話」でした。
セミナーでは、子どもに処方される頻度の高い、抗生物質、風邪薬、解熱剤、整腸剤、外用薬(ぬり薬)について、お話をさせていただきました。

抗生物質
抗生物質は、細菌(バイキン)による感染症にのみ効果を発揮する薬であり、ウイルスによる感染症には全く効果がありません。風邪(正式には風邪症候群)の原因微生物の90%はウイルスですから、風邪に対して抗生物質が処方されるのは不適切なことの方が圧倒的に多いことになります。すなわち、抗生物質=強力な風邪薬、ではないということをお話すると、皆様より、最初の「へぇ~」をいただきました。また、中耳炎の診断=直ちに抗生物質投与という治療は、必ずしも正解とはいえないことにも触れました。小児の急性中耳炎は、診療ガイドライン2018年版 小児急性中耳炎ガイドライン に準拠すると、中耳炎の症状と所見をスコア化することで重症度を判定し、その重症度に応じて適切な時期に、適切な種類と量の抗生物質を選択することが推奨されています。このように、抗生物質とは、本来、必要な症例に選択的かつ限定的に使用すべきものなのです。しかし、「念のため」、「心配なので」、「予防的に」、といった理由で、子供から大人まで、多種多彩な抗生物質が使用されている現実があるのも事実です。こうした抗生物質の乱用によって薬剤耐性菌が発現することにも触れました。そして、薬剤耐性:Antimicrobial Resistance(AMR)の問題は今や世界的な懸案となっていることも紹介しました。皆様より2度目の「へぇ~」!
人は、元来、様々な常在菌と共生し、それらは、様々な形で人の健康に寄与しています。しかし、抗生物質は、標的とすべき病原菌のみならず、人の身体(健康)に有益な働きをする善玉菌も淘汰してしまいます。つまり、抗生物質は、人の身体(健康)に不利益をもたらす局面も持ち合わせているのです。抗生物質が人の健康に及ぼす影響の一例として、生後2歳までに抗菌薬使用歴があると5歳時にアレルギー疾患があるリスクが高いことを示唆した論文の紹介をしました。皆様より3度目の「へぇ~」!

Yamamoto-Hanada K, Yang L, Narita M,et al. Influence of antibiotic use in early childhood on asthma and allergic diseases at age 5. Ann Allergy Asthma Immunol. 2017 Jul;119(1):54-58.https://www.ncchd.go.jp/press/2018/antibiotic-use.html

https://www.annallergy.org/article/S1081-1206(17)30390-3/abstract

さらに、つい最近(本年9月)日本小児科学会より、ピボキシル基含有抗生物質(PCAB)服用による低カルニチン血症、低血糖症に関する注意喚起が発表されたことにも触れました。こうしたことは、医師はもとより、抗生物質を処方される側の子どもとそのご両親にも周知されるべきであり、ご紹介いたしました。皆様より4度目の「へぇ~」!

風邪薬
風邪の原因微生物の90%はウイルス(残りの約10%は細菌、マイコプラズマ、クラミジアなど)であることから、先にも述べた通り、抗生物質はほとんどの場合で不要です。さらに、風邪の症状である鼻水や咳は、体にとって有害ではなく、ウイルス等の原因微生物を体外に排出する有用な生体防御反応です。したがって、ある程度は許容すべき症状であることをお話しました。皆様より5度目の「へぇ~」!
とりわけ、鼻水を止める目的で、抗ヒスタミン剤を用いることには慎重になるべきです。抗ヒスタミン剤の中には、熱性けいれんの誘発に関与するものや、強い鎮静作用がゆえに脳の活動性に影響を及ぼすものもあり、乳幼児のお子さんには、むしろ不利益をもたらす場合があります。抗ヒスタミン剤を用いる場合には、その安全性と必要性を正しく見極める必要があるのです。
ところで、昼夜を問わず咳き込む我が子を見ていれば、何とか咳を止めてやりたいと思うのが親心というものです。しかし、就学前の小児の風邪による咳は、10日以内に止まるのは約50%、25日後でも10%の児で咳が持続するとした論文があります。この論文が示す通り、風邪の咳は、ウイルス等の原因微生物を体外に排出するために、急には止まらないと思っていた方がよいこともご紹介しました。皆様より6度目の「へぇ~」!

Hay AD, Et al. The natural history of acute cough in children age 0 to 4 years in primary care: a systematic review. Br J Gen Pract 2002; 52:401-409

さらに、咳に関しては、今年発表された話題の論文も紹介しました。
咳を主体とした風邪症状のある小児に対し、去痰剤に咳止めを加えると、咳の症状が遷延する可能性があるというものです。つまり、咳止めを飲ませた方が、咳が止まらないということになります。皆様より7度目の「へぇ~」!私自身、この論文は、単に、風邪の咳には咳止めを使うべからず!と主張したものではないと考えます。すなわち、風邪の咳に咳止めを用いる時は、症状の発現からどのような経過を辿り、どのような性質の咳が、どのくらいの頻度で出ているのかを勘案した上で、タイミングよく使うべしということを小児科医に啓発した論文と読み解きました。

西村龍夫. 急性咳嗽を主訴とする小児の上気道炎患者へのチペピジンヒベンズ酸塩の効果. 外来小児科 2019; 22(2):124-132 👉 論文pdf

長くなりましたので、続きはPart2へ

正木 宏

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