御礼とご報告:第17回 パパママセミナーを終えて
令和1年12月15日(日)に開催しました、第17回パパママセミナーのご報告をいたします。
ご参加くださった皆様、日曜日の午前中という貴重な時間帯にお集まりいただき、心より御礼を申し上げます。
今回のテーマは、「小児科医が伝えたい母乳の話」でした。
私は、かつて大学病院の勤務医だった頃、新生児集中治療(NICUのドクターでした!)を専門にしておりました。当時は、1000gにも満たない小さな体で生まれた早産児や、生まれながらに身体に負担を抱えた赤ちゃんたちと日々向き合っていました。そうしたお子さんたちにとって、最も安心、安全な栄養は、紛れもなく母乳です(多くの科学的・医学的根拠の集積もあります)。赤ちゃんを守り、育む、「母乳の無限の力」を目の当たりにしてきたことで、母乳支援は、ごく自然なかたちで私のライフワークとなり、現在(いま)に繋がっています。といった自己紹介に始まり、今回のセミナーでは、あえて「母乳を肯定するお話」だけに偏らぬよう、私なりの切り口で「母乳の知られざる側面」を伝えたいとお話しました。
最初に「母性本能」なるものと、母乳育児との関係性について触れ、そもそも「母性本能」なるもの自体、存在しないという私見を述べた上で、母性あるいは父性とは、『育児におけるユニークな体験をきっかけに、ある瞬間、ろうそくに火が灯るように現れ、燃え続ける炎のようなもの(山本高治郎「母乳」岩波新書:Ⅱ 母乳と語り伝えp55参照)』であることを、いくつかの例を挙げてお話しました。詳細は割愛しますが、つまりは、母乳育児の成功に「母性本能」なる考え方は無関係ということをお伝えしたかったのです。
続いて、母乳ではなく、あえて、人工乳(ミルク)の歴史を年表で紹介しました。人工乳の誕生の歴史には崇高な理由が存在したことや、人工乳が、全てにおいて母乳の対極的(敵対的)に存在するものではないことを紹介しました。しかし、いつの時代も人工乳が、様々な利権や商業的側面と密接に関係する(「ネスレのボイコット運動」などを例に挙げ説明)点においては、母乳と全く異なる存在意義が生じるということもご説明しました。
続いて、母乳分泌に関わるホルモンのお話を。中でも、母乳分泌のメカニズムに欠かせない「プロラクチン」と「オキシトシン」というホルモンには、意外な側面(裏の顔!)があることを、最新の知見も交えてご紹介しました。母乳を与えているママ達は、「プロラクチン」と「オキシトシン」の、様々な作用の中で、揺れ動き、大いに翻弄されているということを、パパたちには是非知っておいていただきたいと思いご紹介しました。
最後に、英国におけるアンケート式の研究において、完全母乳の母親はストレスを、完全ミルクの母親は劣等感や罪悪感を、混合栄養の母親は負の感情を抱いており、母乳育児こそが最善、最良とは言えないと結論した論文を紹介しました。私は、この論文が母乳育児を否定しているではなく、母乳が最善、最良とするキャンペーンは、知らず知らずのうちに母親を追い詰めている可能性があり、母乳と向き合う母親の環境や心情に寄り添うことこそが、母乳支援であると啓発したかったのだと理解しました。つまり、母乳を支援するということは、母乳を深く理解した上で、母乳以外の栄養方法にも精通することと言い換えられるのでしょう。母乳について悩むことがあれば、いつでも私たち小児科医に相談して欲しいと思います。紹介した論文は👉The emotional and practical experiences of formula-feeding mothers. Fallon V, Komninou S, Bennett KM, et al. Matern Child Nutr. 2017;13(4)
その後の、質疑応答タイムでは以下のような質問をいただきました。
Q1.インターネットなどで夜間断乳を推奨する話題を散見しますが、必要なことなのでしょうか?
Q2.卒乳のすすめ方について、どのように考えたらよいでしょうか?
Q3.ロイテリ菌(サプリメント)の摂取について見解を聞かせて欲しい。
Q4.お風呂(浴槽への入浴)の入り方について教えて欲しい。
いただいた質問の一部への回答を記しておきます。
断乳、卒乳については、基本的に無理にやめさせる、あるいは意図的にやめる必要はありません。とりわけ、夜間断乳は、育児上、誰もが踏むべき標準的なステップでもありません。夜間の授乳に特別な問題がない場合は、考える必要もありません。しかし、夜間の授乳が、ママの体調不良の要因(夜間の授乳により慢性的に寝不足、寝不足がゆえに疲労とストレスが蓄積)となっている場合は、無理に頑張り続けるのではなく、夜間の授乳を控える、人工乳で代替することの方が、母子の健康にとって大きなメリットになるということでしょう。
断乳、卒乳については、「オッパイ」が大事なのではなく、その後ろにいる人が大事と解れば自分から離れていく、ということもお伝えしました。オッパイの後ろにいる人とは、母親はもちろんのこと、母親以外の大人と家族(パパ、ジジ、ババ、兄弟姉妹)も含みます。つまり、自分を取り巻く、オッパイの後ろにいる人への信頼と安心が、自然な卒乳につながるという意識も持っておいて欲しいということをお伝えしました。卒乳は、ママと二人だけの決め事ではないということですね!
「母乳のお話」は、今回とは異なる切り口で、まだまだ、お伝えしたいことが沢山あります!
いずれまた、パパママセミナーでお話できれば幸いです。
最後に1月のパパママセミナーのお知らせです。
テーマは、「小児科医が伝えたい こどものスキンケアに関する大切なお話」です。
私は、成長過程にあるこどもの「肌(皮膚)」を健康に育むことは、こどもの「からだ」の健康に直結していると考えています。既にご存知の方も多いと思いますが、乳幼児期の肌トラブルは、食物アレルギーの危険因子(発症要因)であるとする科学的論拠が多数、示されています。肌は、人体(成人)で最大の面積(1.6㎡:約畳1畳分)と重量(3.0㎏前後、体重の約16%)を有する立派な臓器であり、生まれた時から命尽きるまで、外界から内臓器を守り続けてくれる大切な臓器です。脳、心臓、肺、肝臓、腎臓・・・その他全身の重要臓器と同様に、肌は、「むき出しの臓器」として、常にこどもの健康を守り続けているのです。そんな、大切な肌のケアに関するコツを皆様に伝授(大げさ?)したいと思っています。
お申込み・お問い合わせ
参加をご希望される方は、クリニック受付または下記連絡先にお問い合わせください。
TEL:0466-47-6981
日時:令和2年1月26日(日)10:30~11:30
場所:メディカルパーク湘南こどもクリニック
費用:無料
日曜日のランチ前のひと時を、みなさまと一緒に過ごせることを楽しみにしています。
どうぞ、お気軽にご参加ください。
メディカルパーク湘南こどもクリニック
正木 宏