御礼とご報告:第15回 パパママセミナーを終えて
令和1年10月27日(日) 第15回 パパママセミナーのご報告です。
ご参加くださった皆様、日曜日の午前中という貴重な時間帯にお集まりいただき、心より御礼を申し上げます。
今回のテーマは、「小児科医が伝えたい離乳食のお話」でした。
このテーマは、パパママからのリクエストが絶えないこともあり、これからも引き続きお話する機会を設けたいと思っています。今回も、過去のセミナーでお話したことを踏襲した内容となりました。
ご興味のある方は、過去のブログ内容にもお目通しいただけると幸いです。
https://medicalpark-kodomo.com/154/
https://medicalpark-kodomo.com/402/
https://medicalpark-kodomo.com/472/
「離乳食」というと、文字通り、母乳やミルクによる栄養を卒業し、「食べる」という技能を身につけることと解釈されがちです。加えて、こどもに「食べる」という技能を獲得させることは、親に課せられた重要な使命と認識されている方も少なくないのではないでしょうか。それゆえに、多くのパパママが、苦悩し、不安にかられるのかもしれません。
ところで、「食べる」ことは、本能なのでしょうか?
人は、生後1~6ヶ月は、反射的に飲み/食べます。しかし、生後6ヶ月以降は、完全に学んで「食べる」という技能を獲得していきます。すなわち、「食べる」ことは、3歳までに獲得する複雑な技能の組み合わせであり、本能として持ち合わせている技能ではないのです。
こどもは、「食べる」ことを、視る、触る、匂う、聴く、味わう、等の様々な感覚を統合して学びます。その、学びの過程において、無理強いや訓練のような要素が加わると、不適切な接触によるネガティブな体験が、「食べる」に悪影響を与えてしまうことがあるのです。人の食行動は、自己の発達とも密接に関係しています。例えば、1歳までの心理発達は、自分と他人の区別がつかないので、お世話されるままに、その状況を受け入れることになります。その時、口腔運動発達に合わない哺乳や不適切にスプーンで与えられたとしても抵抗はしませんが・・・、実は、窒息の恐怖を繰り返し味わっているのかもしれないのです。1~2歳になると自分の意見を持ち始め、2~3歳になると自分と他人との区別がつくようになります。そうした、心理発達の進化は、食行動に対する抵抗を、吐き出す、手で払いのける、そっぽを向くといった行動から、逃げ出すといった形で表現ようになり、次第に食事がストレスになっていくこともあるのです。
こどもに「食べる」という技能を獲得させることは、親に課せられた重要な使命と捉えてしまうと・・・、そのプレッシャーから、つい、無理に食べさせようとしてしまい、こどもが、どのように、視て、触れ、匂い、聴き、味わっているのか、に思いが及ばなくなってしまうかもしれません。こどもの「食べる」を支える際は、けっして、焦らず無理をせず、こどもの心理発達に合わせて寄り添う気持ちが大切であることをお伝えしました。
最後に、「離乳食」という考え方は、日本独特のものであることにも触れました。離乳食は、文字通り「乳離れのための食事」として、だんだんと母乳やミルク以外の食べ物に慣れさせることに主眼が置かれています。したがって、しっかり食べられるようになってきたら、食事の量と回数を徐々に増やしていくスタイルが基本となります。
これに対し、WHO(世界保健機構)は、離乳食ではなく、「補完食」という言葉を用いています。補完食とは、「生後6ヶ月~23か月のこどもに、母乳やミルクだけでは足りなくなったエネルギーや栄養素を補うための食事」です。つまり、必要なエネルギーと栄養素が摂れれば、量や回数にこだわる必要がない食事ということになります。本来、赤ちゃんは一度にたくさん食べられません。したがって、食事のカロリー密度(kcal/g)を高くし、最初から、少量を複数回に分けて与えるのです。そこには、食事の文化を学ばせるといった意図や気負いは感じられず、あくまでも、エネルギーや栄養素を補いながら自然な形で「食べる」ことに慣れていけばよいというニュアンスを感じませんか。
離乳食の場合、目安となる食事量や、食事回数に縛られ、その通りにいかないと、食べてくれない、進まないと、悩みのスパイラルに陥りがちです。そんな時は、少ない量を複数回に分けて与える「補完食」のスタイルに切り替えてみると、パパママの心の負担が軽くなる場合もあるので、ご紹介させていただきました。
セミナー後半の質疑応答タイムでいただいた質問は以下の通りです。
Q:離乳食、沢山食べすぎるのはダメですか
Q:離乳食を食べすぎて母乳を飲まなくなり、体重増加に影響しないか心配
Q:赤ちゃんへのサプリメント(ビタミンD、鉄)は必要ですか
Q:離乳食が始まったら Oral care(口腔ケア)は、いつから、どうする
Q:ニンジンが形を残したまま便に出てくるようなら、もっとやわらかくすりつぶすべきですか
Q:乳白色のスキンローションには、いわゆる牛乳タンパク成分(乳清)を含むものもあるが、経皮感作の心配はないか
今回も、パパママの意識の高さを強く感じる、重要な質問を沢山いただきありがとうございました。
質問内容を、そのままセミナーのテーマにしたいくらいでした。それぞれの質問に、医学的見地から、私なりの言葉でお答えをさせていただきました。
今回は、過去最高人数のご家族にお集まりいただきました。小さなクリニックの待合室で行うセミナーですので、窮屈さをお感じになられた方には申し訳ございませんでした。ただ、私は、皆様と近い距離間でお話しできる、手狭感がとても気に入っております(笑)。とはいえ、あまりギューギューにならないように調整してまいりますので、今後ともよろしくお願いします。
メディカルパーク湘南こどもクリニック
正木 宏