ロタウイルスワクチンに関する考え方

2020年10月1日より、これまで任意予防接種であったロタウイルスワクチンが、定期予防接種となります。定期予防接種の対象は、2020年8月1日以降に生まれたお子さんとなりますのでご承知おきください。

さて、ロタウイルスワクチンは、ロタリックス(GSK社製:1価ワクチン、2回接種)ロタテック(MSD社製:5価ワクチン、3回接種)の2種類あり、どちらを接種するのかは、保護者に選択していただくことになります。そこで、2種類のワクチンについてご紹介する共に、当クリニックにおけるロタウイルスワクチンに関する考え方を述べたいと思いますので、ご参考にしていただければ幸いです。

先ず、イラストにてロタウイルスの構造を示し、ウイルス内の各部位において、そのウイルスの特徴を決定付ける様々な情報発現が起きることを模式図化してみました。


ここでは詳細な説明は割愛し、要点のみ強調します。イラストの右下にご注目下さい。「A群ロタウイルスの主要な流行遺伝子型といえば、ワクチンが導入される前は、G1P[8], G2P[4], G3P[8], G4P[8], G9P[8]の5種類」という点です。ロタウイルスといっても様々な種類があり、その種類は遺伝子型の違いによって区別されているとお考えください。

次に、2種類のワクチンを比較した表の中段、対応する血清型の項目にご注目下さい。これを見ると、ロタテックは先述した流行遺伝子型の全てに該当する5価のワクチン、ロタリックスは1種類のみ該当する1価のワクチンとなり、ロタテックの方が優れている印象を受けるかもしれません。しかし、ロタリックスは、2回接種することでG1P[8]だけでなく、G2P[4]、G3P[8]、G4P[8]、G9P[8]に対しても予防効果を期待できる交叉免疫**が作用することが分かっています。予防効果に関しては、5価のロタテックの優位性を強調する意見もあるようですが、実際には、同時期に同じ基準で2種類のワクチンの効果を検討した研究はなく単純な比較は困難です。表の効果・国内治験データの結果を見る限り、どちらも優れたワクチンと言えます。現時点では、2種類のワクチンの効果や安全性について、明らかな違いはないとされており、どちらを選んでいただいてもよいと思います1)2)3)。因みに、厚生労働省はHPで、どちらのワクチンを接種しても同様の効果があると掲載しています。☜ 厚労省HP

ロタウイルスワクチンの定期予防接種化を前に、今一度、2種類のワクチンの利点、欠点を私なりに評価してみましたが、どちらかに優劣をつけられるほどの有力な根拠は見当たりませんでした。したがって、当クリニックにおけるロタウイルスワクチンの選択に関する現時点での最終結論は「どちらを選んでも良い」となります。

1) Araki K, Hara M, Tsugawa T, et al. Effectiveness of monovalent and pentavalent rotavirus vaccines in Japanese children. Vaccine 2018; 36(34): 5187-5193. ☜ PMID: 30037664
2) Burnett E, Parashar UD, Tate JE. Real-world effectiveness of rotavirus vaccines, 2006-19: a literature review and meta-analysis. Lancet Glob Health 2020; 8(9): e1195-e1202. ☜ THE LANCET Glob Health
3) Lu HL, Ding Y, Goyal H, Xu HG. Association Between Rotavirus Vaccination and Risk of Intussusception Among Neonates and Infants: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Netw Open 2019; 2(10): e1912458. ☜ PMID: 31584679

**交差免疫とは:ワクチンに含まれるウイルス血清型に対する免疫を獲得することで、タイプの似ているほかのウイルスにも防御反応を示すこと

最後にもう一つ、最新の情報についてもご紹介します。先にも述べた通り、従来、ヒトから検出されるA群ロタウイルスの主要な流行遺伝子型は、G1P[8], G2P[4], G3P[8], G4P[8], G9P[8]の5種類でした。しかし, 近年は、これまで稀だった遺伝子型(G8)や、動物ロタウイルス由来と考えられる遺伝子を持つ株(ウシ様G8およびウマ様G3)、新しい遺伝子型構成を持つ株(DS-1-like G1P[8], DS-1-like G3P[8], およびG9P [8]-E2)の流行が国内外で認められるようになってきました。☜ 国立感染症研究所
全国の地方衛生研究所と検疫所からの病原微生物検出情報(IASR)によると、2018~2019年シーズンの流行遺伝子型は、2種類のワクチンで対応出来る血清型はむしろ少数派となり、ワクチンで対応していない血清型のG8、G9が大多数を占めるように変化しています。

この動向には、私も大変驚きました。こうしたウイルスの流行遺伝子型の変化をみると、2種類のワクチンの優位性を吟味することは二の次のように思います。むしろ、ワクチンの種類を問わず、適切な時期に確実に接種することで、遺伝子型特異的な免疫獲得はもとより、多様なウイルスに対しても交叉免疫が作用し、交叉防御が発揮されることに期待すべきだと考えます。今後、ロタウイルスワクチンの定期接種化に伴い、接種率が上昇することで流行遺伝子型の分布に新たな変化が生じる可能性もあります。クリニックとしては、今後の疫学的情報の変化を注視しながら、必要に応じて、2種類のワクチンのどちらを選択するのが適切なのかを見極めていきたいと思います。

ロタウイルスワクチンのことについて、分からないことや不安なことがあれば、遠慮なくクリニックにお問い合わせください。

メディカルパーク湘南こどもクリニック

正木 宏

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