インフルエンザワクチン 今年はどちらを選べばよい?

日本の四季を表す美しい言葉「二十四節気」によれば、2024年は、既に立秋を過ぎ、9月7日(土)に「白露」を迎えました。早朝などに草木の先や花に露(つゆ)が結び、白く光って見えることに由来する美しい言葉です。残暑は遠のき、秋の気配が色濃くなっていく「白露」と、いいたいところですが・・・まだまだ猛暑が続く日本列島。暑い日が続くので、つい失念しがちですが、実はインフルエンザの予防接種の季節が目前に迫っております。           今年(2024/25シーズン)は、従来の注射インフルエンザワクチンに加え、あらたな選択肢として経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(商品名フルミスト®点鼻液)の接種も始まります。当院でも、先にお知らせした通り実施します。☞ 詳細はこちらから

日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会は、令和6年9月2日付で「経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方」を作成し、令和6年9月9日公式サイトに掲出しましたのでご興味のある方はお目通し下さい。☞ 詳細はこちらから

さて、既に関心を寄せていただいている皆さまからは様々なお問い合わせをいただいております。その中で最も多いご質問は、「従来の注射のワクチンと新しいワクチン、どちらの方がいいのですか?」というものです。誰もが気になる率直な質問だと思います。ただし、このご質問、現時点では、その「優劣」について明確にお答えすることは誰にも出来ないというのが真実なのです。

国内における薬事承認時の臨床試験では、フルミスト®点鼻液と従来の注射インフルエンザワクチンの直接比較試験は実施されておらず1)、両者の「優劣」に関する評価は示されていません。一方、2016/17 シーズンに2歳〜19歳未満の健康小児を対象とした、フルミスト®点鼻液(595例) またはプラセボ (290例) を1 回接種した無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験1)では、流行株に限らない全てのインフルエンザウイルス株によるインフルエンザ疾患に対するフルミスト®点鼻液の有効性が示され1)-3)、日本人・小児におけるインフルエンザ罹患予防効果が、注射インフルエンザワクチン相当であると結論付けられたことで薬事承認に至りました。つまり、国内外からの最新の研究報告4)によると「従来の注射のワクチンと新しいワクチン、どちらも同等の効果」というのが、現時点でのコンセンサスなのです。

安全性に注目してみるとフルミスト®点鼻液の主な副反応については、鼻閉・鼻漏、咳嗽、口腔咽頭痛、頭痛などが報告されています。その他、一般的な予防接種後の副反応が起こる可能性はありますが、頻度は少ないとされています。経鼻投与(鼻腔内に噴霧するタイプのワクチン)の生ワクチンという特性上、鼻閉・鼻漏、咳嗽、口腔咽頭痛といった上気道炎症状は、注射インフルエンザワクチンに比較すると発現する可能性が高いとご認識いただいておいた方がよいでしょう。一方、重大な副反応としてショック、アナフィラキシーが挙げられますが、これは全てのワクチンに共通するものです。しかし、薬事承認時の臨床試験における安全性の評価では、重大な副反応の報告はありませんでした。したがって、安全性についてとりわけ懸念すべき点の多いワクチンではありません。

以上のことを踏まえると「どちらの方がお子さんにとってふさわしいのか」という視点で、ご判断いただくことが賢明なのだと思います。

「痛い思いをするよりは痛くない方で」 「痛い注射を2回より痛くない点鼻を1回の方で」といった具合にお子さんへの負担軽減を主眼にご判断いただくことも一案です。一方で、経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(フルミスト®点鼻液)の特性を考慮すれば、「予防効果が1年と長く持続する」 「鼻粘膜に直接免疫を誘導(気道分泌型IgA抗体)するため発症予防効果が高いとされている」 「従来の注射インフルエンザワクチンと同様に血液内にも免疫を誘導(IgG抗体)させるので、仮に感染してしまった場合でも重症化を抑制できる」 「生きたウイルスで免疫を誘導(抗原特異的T細胞応答)するため実際の流行株がワクチン株と異なっても発症を軽減する効果にも期待出来る」等の注射インフルエンザワクチンでは得られない効果に期待して、ご判断いただくことも一案といえるでしょう。

そういう意味では、以下に該当する方は、フルミスト®点鼻液の接種をより積極的にお考えいただいてみてはいかがかと思います。

☑ 注射の痛みに敏感な方

☑ 注射インフルエンザワクチンを接種しても毎年のようにインフルエンザにかかってしまうという方

☑ 注射インフルエンザワクチンを接種した部位が、いつも大きく腫れてしまうという方

☑ 大事な時期に出来る限りインフルエンザに罹ることは避けたいとお考えの受験生の方(受験生の方は、万全を期すためにフルミスト®点鼻液と注射インフルエンザワクチンの両方を接種しておくことも可能ですので、ご相談ください)

日本における日本人・小児に対するインフルエンザ罹患予防効果については、今後、フルミスト®点鼻液と注射インフルエンザワクチンを比較検討した様々な研究データが蓄積されるはずですので、その動向には注目していきたいと思います。来年以降は、どちらのワクチンを選択した方が良いかの答えが、徐々に明らかになってくるかもしれませんね。

フルミスト®点鼻液の導入、初年度となる今年(2024/25シーズン)については、従来の注射インフルエンザワクチンと新しいワクチンのどちらの方が Best(最良)なのかを追求するよりは、どちらの方がお子さんにとって Better(良い=ふさわしい)かという視点で、選択いただければ良いのではないでしょうか。つまり、今年は、Better is Better than Best ! のスタンスでご判断されることをお勧めします。判断に迷い、悩まれることがあれば、遠慮なくお問い合わせいただき、一緒に More better(より良い)な選択を考えましょう。

メディカルパーク湘南こどもクリニック

院長 正木 宏

参考文献

1)第 25 回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会. 小児に対するインフルエンザワクチンについて. 2024. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001256393.pdf (2024 年 8 月 20 日閲覧)

2)第一三共株式会社. フルミスト点鼻液に関する資料. https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20230424001/index.html (2024 年 8 月 20 日閲覧)

3)第一三共株式会社. 経鼻弱毒生インフルエンザワクチン フルミスト点鼻液 添付文書. 2023. https://www.medicalcommunity.jp/filedsp/products$druginfo$flm$pi/field_file_pdf (2024 年 8 月 20 日閲覧)

4)Centers for Disease Control and Prevention. Prevention and Control of Seasonal Influenza with Vaccines: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2018–19 Influenza Season. Morbidity and Mortality Weekly Report 2018; 67: 1-22.

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