御礼とご報告:第10回 パパママセミナーを終えて

令和1年5月26日(日) 第9回 パパママセミナーのご報告です。

当日は、さわやかな晴天に恵まれ、幸せに感じました。ご参加くださった皆様、日曜日の午前中という貴重な時間帯にお集まりいただき、心より御礼を申し上げます。

今回のテーマは、「小児科医が伝えたい スキンケアのお話」でした。
私は、日頃から、成長過程にある子どもの「肌」を健康に育むことは、子どもの「からだ」の健康に直結すると考えており、是非、セミナーのテーマに取り上げたいと思っていました。

冒頭、「肌」の語源について話を始めました。「肌」は、体の内から視て端にあるもの、つまり「はた(端)」「はて(果)」という意味が語源とされていること、また、「親分肌」や「姉御肌」といわれるように、「気質」「気性」、すなわち「中身」を表す意味を持つことなどに触れ、「肌」は、内から外に向かって生まれた言葉であることを話しました。


続いて、「肌(皮膚)」は、臓器ですか?の質問に、半数以上の皆様が、“NO”と反応されましたが…、答えは“YES!”。「肌(皮膚)」は、人体(成人)で最大の面積(1.6㎡:約畳1畳分)と重量(3.0㎏前後、体重の約16%)を有する立派な臓器であることを説明すると驚きの声が上がりました。「肌」は、生まれた時から命尽きるまで、外界から内臓器を守り続けてくれる大切な臓器なのです。

「肌(皮膚)」が臓器であることをご理解いただいた後で、その発生の起源が、外胚葉にあることにも触れました。実は、「肌(皮膚)」以外に外胚葉由来の重要臓器がもう一つあるのですが、それは「脳」です。

肌と脳は、その起源を同じくする臓器であることから、「肌は第2の脳」と称されることすらあることにも触れました。映画のワンシーンに感動して鳥肌が立つ時、脳で感じるよりも先に、鳥肌が立ちませんか?緊迫した会議室に遅れて入室した時、その場の緊張感を脳で感じるより先に、肌で感じませんか?そう、肌は、まさに「考える臓器」といえるのかもしれません。そうした「肌の万能性」をうかがわせる最新の皮膚医学の知見についても紹介しました。肌(とりわけ表皮)は、愛情ホルモンとして知られるオキシトシンを合成すること。脳内で情報制御に寄与しているタンパク質を有していること。さらには、「患部をさする」ことで、打撲部位や創傷部位の治癒が促進される、「手当て」のメカニズムまでもが科学的に証明されていることも紹介しました。「痛いの痛いの飛んで行け~」は、単なる“こどもだまし”ではなかったのです!

私は、ヒトにとって大切な臓器のひとつである「肌(皮膚)」を、生まれた時から健やかに保ち続けて欲しいと願っています。その思いから小児科医として、これまで私が取り組んできたこともご紹介しました。そうした自身の経験を踏まえ、私から、ご自宅で継続して欲しい3つのお願い “Take home message” をお伝えしました。

続いて、過去のセミナーの質疑応答タイムでも幾度となく質問があり、時節柄、タイムリーでもある「日焼け止め問題」を取り上げました。
紫外線(UVA、UVB、UVC)が健康に及ぼす影響、日焼け止めに表記されているSPF(Sun Protection Factor)、PA(Protection Grade of UVA)の解釈、日焼け止めには、「紫外線吸収剤」「紫外線散乱剤」が含まれ、その含有割合(比率)がSPFとPAの値に影響すること、SPFの高い製品は、「紫外線吸収剤」の含有量が多い場合があること、また、「紫外線吸収剤」は、刺激性が強いこと、したがってSPFの高い製品を子どもに使用する場合は慎重であるべきこと、などを説明しました。その上で、日焼け止め選びのキーポイントは、「ベビー用」「低刺激用」と表記されたものが安心であることを説明しました。一方で、紫外線にはデメリットばかりではなく、子どもの健康に寄与する面があることにも触れました。乳幼児期に食事のみから摂取することが困難なビタミンDは、体内でカルシウムの吸収を助ける骨の健康に欠かせない栄養素です。実は、そのビタミンD、日光(紫外線)を浴びることによって人間の体の中で作られる、“太陽のビタミン”とも呼ばれているのです。つまり、適度な紫外線暴露は、子どもの健康維持に欠かせないともいえるのです。私からは、直射日光を20分以上浴び続け、翌日に肌が赤くなってしまう(紫外線によるやけどのような状態)ことのないように配慮すれば、乳幼児の外出時に紫外線をブロックするために徹底的に日焼け止めを使用する必要はないことも説明しました。また、先に述べたとおり、日焼け止めには子どもの肌に刺激になる成分が含まれていることもあるため、日焼け止め自体による皮膚トラブルが起きることがあることや、皮膚トラブルが起きないよう、使用後は丁寧にクレンジングする必要があることにも言及しました。

最後に、新生児期のビタミンD内服によるアトピー性皮膚炎の発症予防効果を検討した最新の論文をご紹介しました。結果は、ビタミンDの内服により血中濃度を上げてもアレルギー疾患の予防にはつながらないというものでした。しかし、副次評価項目において興味深い結果が得られたのです。この研究において、アトピー性皮膚炎を発症した乳児は、発症しなかった乳児よりも紫外線暴露量が少なかったのです。つまり、日光浴がアトピー性皮膚炎の発症予防に有効である可能性をうかがわせるような結果が得られたのです。もちろん、そうした推論に至るには限界も多い研究であり、この結果を単純に受け止めるわけにはいきませんが、太陽の恵みは、適切な形で、適度に受けるべきことを意味しているのかもしれませんね!
ご興味のある方は☞ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30366577

長くなりましたが・・・実は当日も、私の話が質疑応答タイムに10分割り込んでしまい申し訳ございませんでした。熱く語りすぎて(苦笑)、時間配分を誤りました。つつしんでお詫び申し上げます。そうした中、残された質疑応答タイムで、沢山のご質問をいただき、楽しく、やり取りをさせていただきました。ご質問をいただいた皆様には心より感謝を申し上げます。
私としては、「肌」について、様々な角度からお話申し上げたいことがまだまだ沢山あります。
いつか、またセミナーのテーマで取り上げさせていただきたいと思います。

さて、次回は、6月23日(日) 「小児科医が伝えたい おねしょにまつわるお話」です。
いわゆる夜尿(おねしょ)は、夜間の排泄に関わる発達の遅れであり、自然に治るというお考えの方も多いと思います。しかし、5歳以降で月1回以上の夜尿(おねしょ)が3ヶ月以上続く場合は、「夜尿症」と診断され、治療が必要な場合があります。「夜尿症」は、アレルギー疾患に次いで2番目に多い小児の慢性疾患といわれていることはあまり知られていないのではないでしょうか。実際に小学3年生で約8%、小学5年生でも約5%(1クラスに2、3名程度)いるとされています。当日は、その「夜尿症」について、分かりやすく解説したいと思っています。
それでは、次回のセミナーで、皆様とお会い出来ますことを楽しみにしております。

メディカルパーク湘南こどもクリニック
正木 宏

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