御礼とご報告:第6回パパママセミナーを終えて

平成31年1月27日(日)に開催しました、第6回パパママセミナーのご報告をいたします。

ご参加くださった皆様、日曜日の午前中という貴重な時間帯にお集まりいただき、心より御礼を申し上げます。

それにしても報告が遅すぎるだろ~の声が、聞こえてまいります(苦笑)。ひとえに、私の怠慢であり、弁解の余地なしです・・・ご報告が遅れましたことを心よりお詫び申し上げます。

さて、今回のテーマは、「小児科医が伝えたい母乳の話」でした。

パパママセミナーで、いずれ、取り上げたいと思っていたテーマでしたので、私としては、満を持しての開催となりました。

 

母乳育児支援は、小児科医にとっての重要な責務です。

一方で、様々な理由により母乳を与えられなかった母親や、母乳を断念せざるを得なかった母親に寄り添い、支えることも、小児科医の重要な役割であると思っています。

「乳幼児にとって、母乳は最良の食物」という考え方は、世界中の小児科医のコンセンサスです。したがって、小児科医が話す「母乳のお話」となると、科学的、医学的根拠を示しながら、母乳育児の素晴らしさ、大切さを説く内容になりがちです。もちろん、母乳に関する科学的、医学的に評価された最新の情報は、小児科医が正しく、分かりやすく、世の中に伝えていく必要があるでしょう。今回のセミナーでは、「母乳育児の肯定」のみに偏らないよう、私なりの切り口で、お話をさせていただきました。

最初は、「母性本能」って、あるの、ないの、というお話からでした。この質問に対し、挙手をお願いすると、多くの方が「ある」に手を挙げておられましたね。私からは、「母性本能」なるものは「無い!」との見解を示すと、皆様、驚かれていました。そこで、母性あるいは父性とは、『育児におけるユニークな体験をきっかけに、ある瞬間、ろうそくに火が灯るように現れ、燃え続ける炎のようなものである』とご説明しました。私が、そうした考えに至るきっかけとなった、山本高治郎先生の名著「母乳」岩波新書(今は絶版となりましが、中古書として購入可能です、ご興味のある方は、“ Ⅱ 母乳と語り伝え P55 ” をご覧いただくと前述の私の主張をご理解いただけるかもしれません!)の中の一節についてもご紹介しました。このことは、母乳育児の成功に、母性本能なる考え方は無関係ということでもあります。

続いて、母乳ではなく、あえて、人工乳(ミルク)の歴史を年表を用いて説明しました。ヨーロッパにおける乳母(うば)の文化、ネスレがブリキ缶入りのコンデンスミルクを発売したのが明治時代の前、慶応元年であったこと。日本では、森永が医師との共同で粉ミルクを完成させたのが大正9年であったこと。1978年に世界的に巻き起こった、ネスレのボイコット運動の真相など、人工乳(ミルク)の歴史に、皆様、意外な感想や驚きを感じられたのではないでしょうか。また、1970年頃(ちょうど私が生まれた頃です)の母乳率は、どのくらいだったかを皆様に質問したところ、「昔だから、70%くらい?!」という、声が多かった中、実は25~30%だったことを話すと、大変驚かれていましたね。今から50年前の日本では、母乳を与えることよりも、人工乳(ミルク)を与えることの方がトレンド(流行り?)だったのです!

続いては、母乳分泌に関わるホルモンのお話でした。中でも、母乳分泌のメカニズムに欠かせない「プロラクチン」「オキシトシン」というホルモンには、意外な側面(裏の顔!)があることを、最新の知見と共にご紹介しました。母乳を与えているママ達は、「プロラクチン」と「オキシトシン」の、目くるめく様々な作用の中で、揺れ動いているのだということを、是非、パパに知っていただきたくて!。そうした、説明の上で、母乳育児中のママと、それを支えるパパとの関係性について、【共感、鈍感、分担、淡々!(韻を踏んでみました)】がお勧めであることをご説明しました(あくまでも正木個人の意見です)。とはいえ、何名かのママはしきりに頷いておられましたね(笑)。

最後に、「生後6ヶ月までは母乳のみで」を推奨する英国おける、実際の達成率は1%以下の現状にあり、完全母乳の母親はストレスを、完全ミルクの母親は劣等感や罪悪感を、混合栄養の母親は負の感情を抱いていることから、母乳が最善であると推奨することが最良とは言えないと結論した論文を紹介しました。私は、この論文に素直に共感すると同時に、この論文は母乳育児を否定しているのではないと感じます。母乳が最善であるとしたキャンペーンは、知らず知らずのうちに母親を追い詰めてしまうのかもしれません。つまり、母乳に向き合う母親の環境や心情に寄り添ってこその母乳育児支援であることを啓発した論文であると理解しました。こうした視点に立って、母乳支援を実践できる小児科医でありたいと思い、ご紹介した次第です。

The emotional and practical experiences of formula-feeding mothers. Fallon V, Komninou S, Bennett KM, et al. Matern Child Nutr. 2017;13(4)

その後の、質疑応答タイムでも、沢山の質問をいただきありがとうございました。今回は、質問の内容は割愛させていただきます。すみません。

長文になりましたので、このへんで、終わりにしますが、「母乳のお話」は、今回とは異なる切り口で、まだまだ、お伝えしたいことが沢山あります!

いずれまた、パパママセミナーでお話できれば幸いです。

 

メディカルパーク湘南こどもクリニック

正木 宏

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